絵画販売業者の作品交換
年間の絵画販売の取引額が2000億円はあろうと推定される日本の美術市場を構成しているのは、全国に何千という数で存在している各種の美術商である。
美術商の主な仕事は、客との間で絵画を購入、販売することであるが、それは、あくまでも一面に過ぎない。
この職業には、もう一つ重要な面がある。
「会へ行く」「会がある」という言葉を美術商はよく使う。これは業者の作品交換会のことである。
一般の美術愛好家には窺い知れない世界である。
交換会は、それぞれが所属している組合、あるいはサークルによって様々な形で行われている。
交換会の目的は、各自が手持ちの絵画作品を持ち寄って、より必要な作品を入手することにあるのだが、
業者間の取引それ自体が相当量である結果として、独自の市場を作り出し、かならずしも、すべてのものが
客を予想し、また、客に依存していないのが実情である。もっと具体的に言うと美術商協同組合の場合、会で
売却した作品は翌日換金でき、購入した品は一ヶ月以内に精算すれば良く、手数料は売り手の負担で三部という
低廉さであり、他も多くがこれに準じている。売る場合には換金が早くて手数料が少なく、買う場合には余裕が
あって、手数料が不要というふうにすべてが有利に出来ていて、しかも、同業者以外の介入も注視もないと
言う平穏な絵画販売の場は、業者にとって、一種の安全地帯であり、そこのみで、ある程度、商売が成り立ちす
れば、とかく、ないし的になりやすい環境である。
このような業界市場は欧米には全く例を見ない。
言うまでもないと思うが、欧米におけるオークションはパブリックであり業者も一般人も、入り交じって、
同列において熾烈に争う。ついでに言うと、日本におけるオークションのほとんどすべては、業者が経営しており、
これもまた、変則的である。
さて、話を元に戻すと、一般市場の内側に、きわめて恒常性のある互助的な業者市場を要している業者であるから、
その大多数の意見が一致するならば、協力に業界を主導することが十分に可能なのである。
また、この業界関係者のみの競売のため一般の購入者には市場価格がわかりにくく、高値で絵画を購入させられる
一つの要因にもなっている。これが日本の絵画販売が適切な価格となっていない理由である。